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2019.02.01

なぜ福島ユナイテッドFCは農業をやるのか?(前篇)

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株式会社AC福島ユナイテッド

ゼネラルマネージャー 竹鼻 快 氏

宮城県仙台市出身。湘南ベルマーレを経て、2007年から2011年までガイナーレ鳥取でGMを務める。2012年に福島ユナイテッドFCのクラブダイレクターに就任し、2013年から現職。

福島ユナイテッドFCは、「明治安田生命J3リーグ」に所属する福島県唯一のJリーグチームです。最近では、選手がリンゴやモモの栽培に携わるなど、ユニークな試みを行っていることでも知られるようになりました。チームを運営する株式会社AC福島ユナイテッドを訪れ、クラブとして取り組んでいるチャレンジについてゼネラルマネージャーの竹鼻氏に伺いました。前・後篇の2回に分けてお送りします。[後編はこちら

私のチャレンジ

サッカークラブの運営は「限界」との戦い

Jリーグのクラブ運営は、一言で表せば「限界」との戦いです。その代表的なものがホームタウン制度ですね。これは地域密着の理念を実現するための制度ですが、裏を返せばマーケットに明確な限界があるということ。隣県の仙台市が人口100万人を超える政令指定都市なのに対し、福島市は人口30万人を切っています。もし他のビジネスであれば、事業を拡大するために仙台や山形に進出する選択肢があるかもしれません。しかしそれをやりたくてもできないというジレンマを前提に経営をしなければなりません。

さらに近年は、事業規模の面でも限界が現れています。現在のJリーグはJ1・J2・J3合わせて54のクラブがあります。その事業規模を見ると、頂点はJ1の浦和レッドダイヤモンズで約80億円。一方の私たちは約3.6億円と実に20倍以上の開きがあります。こうした格差の多くは、クラブに親会社があるかどうか、巨大企業がバックアップしているかどうかによって生まれます。たとえば、世界的なプレイヤーのイニエスタ選手を獲得して話題になったヴィッセル神戸は、神戸出身の三木谷さんがオーナーですし、鹿島アントラーズの新日鐵住金、ジュビロ磐田のヤマハなど、地場の大企業の後ろ盾があればしっかりとお金をかけてチーム運営ができます。今シーズンJ1にいたV・ファーレン長崎も2017年から地元のジャパネットが親会社になっています。しかし私がガイナーレ鳥取にいた時代には、ともにJ2昇格を争っていた相手でした。

そういうことを前提とすると、マーケットが小さく親会社も持たない福島ユナイテッドFCは、ビジネスとして頭打ちになる条件が揃っていると言わざるを得ません。もちろんスポーツなので結果次第で変えられる世界ですが、それでも「J1優勝」や「AFCチャンピオンズリーグ出場」のような目標は、シビアに見るともう現実的ではなくなっているんです。このさまざまな「限界」に囲まれた状況を打ち破るためには、何らかの「チャレンジ」が必要でした。

「99%」に、どうアプローチするか

最初に取り組んだのは、地元における福島ユナイテッドFCの存在を確立することでした。というのも、地元の人々のほとんどはサッカーに関心がないからです。日本ではまだ日常生活にスポーツ観戦を取り入れる文化が浸透していません。サッカーを生で観戦する人の数は、J1を見ても町の人口のだいたい1%くらいが多いです。つまり99%の人は試合を見に来ないんです。そこで私は、その99%の人々にアプローチして認知を高めることで、少しでも彼らからのサポートを得たいと考えました。

そう思ったきっかけは鳥取時代の経験です。観客100人前後からスタートして最終的に毎試合2000人前後まで来てもらえるようになったのですが、それまで2週間ごとに2000人が動くようなイベントなんて鳥取には存在しませんでした。だから如実に経済効果が出るようになり、土日の夜は真っ暗だった駅前にも人通りが戻ってきたんです。サッカーに無関心だった居酒屋のおじさんも「最近よくガイナーレの服を着た人を見かけるねえ」と言ってくれたり、小口のスポンサーになってくれたりしました。

また、鳥取がFC東京という人気チームと対戦したときは、相手のJ2優勝がかかる試合だったこともあり、東京から大挙してサポーターが押し寄せました。1ヶ月前から飛行機も鉄道も宿泊施設もすべて埋まり、一晩で何千万円もの経済効果があったと地元ニュース番組で報じられました。これを境に、町にサッカークラブがある価値が認められ、みんな一斉にこちらを向いてくれました。福島も同様だと考えていて、福島ユナイテッドFCがあってよかったと思われるように、私たちは3つのミッションに取り組んでいます。

地元目線でのサッカー環境の整備

ミッションの1つめは、中心市街地の活性化のための専用スタジアム建設です。Jリーグには「クラブライセンス制度」というものがあって、J1なら15000席、J2は10000席、J3は5000席を備えたスタジアムが必要です。たとえばJ2をめざして15000席のスタジアムをつくっても、満員にできず空席が多いようなら結果的に無駄となります。また、建設規模が大きくなると用地やコストの問題から郊外に建てざるを得ず、町の活性化という目的から離れてしまいます。そこで私たちは、J3規格でも構わないのでまずは町の中心部につくることを優先して働きかけています。

2つめは、芝のグラウンドの整備です。実は福島県にはサッカーに使える芝のグラウンドがほとんどありません。もともとJヴィレッジという国内最大規模のトレーニング施設があるため、それに頼っていたんです。しかし震災でJヴィレッジが使えなくなると、グラウンド不足が一気に表面化しました。私たちが練習している十六沼公園には人工芝グラウンドが2面ありますが、共用なので使えないときは米沢や相馬まで移動しています。県内を見渡しても郡山に人工芝が1面あるくらいで、会津にはまだありません。

そこで福島市と掛け合い、十六沼公園にグラウンドを3面追加してもらう代わりに、県外から草サッカーなどの合宿を誘致する取り組みを始めました。福島は交通の便がよく、たとえば神奈川県の湘南からも車で4時間かかりません。グラウンドから5分のところには有名な飯坂温泉があり、合宿や大会とセットで宿泊してもらうことが可能です。石川県の和倉温泉が成功している手法ですね。すでにこの方法で、小学生向けの「ユナイテッドカップ」や、年配の方を対象にした「OYAJIカップ」などを開催していて、特に「OYAJIカップ」では、市内での宴会会場も私たちで手配しています。

生産から出荷まで、選手が「ガチで」

地域のためのミッションの3つめは、福島の風評被害の払拭をお手伝いする活動です。県内には、農産物を生産するだけでなく販売やPRまで行う人がたくさんいて、販売ルートを探していると聞いていました。「6次産業化」と言うのですが、そういう生産者さんを回って作物をクラブで仕入れ、アウェー遠征先で「ふくしマルシェ」というショップを出して販売しています。農家さんを回っているうちにわかったのは、まず農家の方々の後継者問題。優れたノウハウはあるのに人がどこにもいないんですね。その一方で、若い人で新しいことに挑戦しながら頑張っている農家さんもいる。そこで次は、私たち自身が農業に直接関わってみようと思いました。

手始めはリンゴでした。石川町の大野農園さんの木を1本買い取り、選手が一から教わりながら育成しました。形式的にちょっと手伝うとかではなくて、ガチの作業ですよ(笑)。県内メディアにも取り上げられ、大野農園さんの名前も出ました。日本経済新聞の全国版で紹介されたときには注文が大幅に増えました。今ではクラブ所有の木も増えていて、選手が仕分けから出荷まで行って自分のサインを入れています。その次は、市内の安斎果樹園さんにお願いしてモモを始めました。選手だけでなく監督も、収穫と出荷の日は6時間くらい作業していましたね。そして今年からカトウファームさんの協力のもと、お米づくりに取り組んでいます。社内に農業部という部署を立ち上げ、地元スーパーなどと連携しながら本格的にブランド展開していきます。

クラブと地域の双方にメリットがある関係に

サッカーと農業はまったく接点がないので当初は大変でした。「ふくしマルシェ」の農産物を仕入れるときも、プレゼント用の無償提供かと誤解されたこともありました。どこへ行くにも一からの説明が必要でしたが、いろいろな人脈もできて、おかげさまで福島の農業界ではかなり知名度が上がってきたと思います。サッカークラブは、スポンサー枠とグッズ、チケット、ファンクラブくらいしか販売できる商品がありません。農業というプラスアルファの事業にチャレンジすることで、収益面では限界の突破が可能になります。現にチケット販売は横ばいですが農業の売上が右肩上がりで、いずれ追い越しそうな勢いです。売上からは選手に特別手当も出していますし、いずれ選手のセカンドキャリアの選択肢の一つになったりすれば面白いですよね。

もちろん、本末転倒にならないように本業のサッカーも手を抜きませんし、1%の観客を2%にする努力も並行して続けていきます。大切なことは私たちと99% の人とが、お互いに利益が出るような関係になること。そうやって地道にクラブの価値を高めていって、スポンサーの増加などにつながればと考えています。

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