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2019.02.01

なぜ福島ユナイテッドFCは農業をやるのか?(後篇)

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18よかっぺ

株式会社AC福島ユナイテッド

ゼネラルマネージャー 竹鼻 快 氏

宮城県仙台市出身。湘南ベルマーレを経て、2007年から2011年までガイナーレ鳥取でGMを務める。2012年に福島ユナイテッドFCのクラブダイレクターに就任し、2013年から現職。

J3リーグを戦う福島ユナイテッドに、クラブとして取り組んでいるチャレンジを伺うインタビュー。前篇ではチームの農業活動への取り組みなどについて伺いましたが、後篇ではもう一つの大きなチャレンジの柱になっている人材育成について、ゼネラルマネージャーの竹鼻氏に聞きました。[前編はこちら

私のチャレンジ

短期的な選手補強には限界がある

サッカーの話に戻しましょう。最初にも話したように、Jリーグでは地域密着を理念に置いています。理想としているのはヨーロッパでしょう。そこでは「おらが町のチーム」があって、たとえ何部リーグに所属していようとも、週末になると地元の人がスタジアムに集まって熱心に応援します。この方向性を理解はできるのですが、そもそも日本のスポーツは体育やアメリカ型のエンターテインメント・ビジネスがスタート地点なので、土壌がまったく違うんです。つまり、Jリーグが掲げる理想とは逆に、「勝敗」や「結果」にしか関心を持たれない傾向があるように思います。

そういう価値観に縛られると、予算の多くを目先の選手補強に使いがちです。私自身も経験しましたが、勝てないとネットなどでいろいろ書かれてバッシングされます。誰でも叩かれるのは嫌だから、「選手を獲らなければ」と考えるんですね。しかしJ2やJ3のように予算に限界があるチームは、獲得できる選手が限られる。そこで、経験と実力はあるけれどもピークは過ぎたベテラン選手などを獲るんです。短期的には、そういう補強で乗り切れるかもしれません。しかし残念ながらベテランなので怪我や引退で1人2人と抜けていき、いつの間にか元通りということもよくあります。つまり、このやり方では何も残らないんです。かつてのガイナーレ鳥取も、ベテラン選手を集めて圧倒的な強さでJ2に昇格しましたが、現在はJ3に戻ってしまっています。

選手を育てて送り出すクラブへ

私たちには、この循環から抜け出すための新たなチャレンジが必要でした。それが「ステップアップクラブ」という明確な方針です。福島ユナイテッドFCとして昇格できなくても、個人がここで活躍することで、上のカテゴリーや昇格資格があるチームからオファーを受けられる。それをクラブとして後押ししていくという考え方です。選手だけでなくフロントの営業マンも含めて、すべての人に上をめざしてやってほしいと言っています。従来は選手を獲得するために使っていた予算を、すべて「選手が入ってくる仕組み」と「選手を育成する仕組み」に投資するようにしました。

まず、入ってくる若い選手たちのために選手寮をつくりました。アスリートにとって大切な食事は、近くにある飯坂温泉の旅館3軒に協力を仰いで朝食バイキングを整備し、昼食は小さな旅館を借りて料理人につくってもらっています。そのまま温泉に入って午後はフィジカルトレーニングをしたり、サッカースクールのコーチに行ったりすることも可能です。また、地元の治療院と組んで怪我の治療や予防のためのトレーナールームをつくりましたし、医療面では福島医大と協力体制をとっています。トップチームの指導者も背伸びをして名前のある監督と契約し、しっかり指導してもらえる環境を整えています。このような地道な取り組みによって、J3の中ではダントツによい環境が整いました。J1ではこれらの環境がクラブハウスに集中していますが、私たちはすべて町の中に点在しているのが特長です。農業やスクールのコーチの経験は選手が世間を知るきっかけになりますし、アルバイトの掛け持ちなどをしなくてよいため、サッカーに集中できるメリットがあります。

近年は、うちにいた選手が毎年2人くらいJ1やJ2でやるようになりましたし、そういう選手がいると入って来る選手の質も変わります。今年は早稲田大学の得点王や日本体育大学のキャプテンが加入しましたが、そういう選手から新たに口コミも広がります。おかげで現在、練習生は満員御礼の状態です。また、伸びしろがある選手を獲得するためのスカウトにも注力しています。一般的にJ3では予算の問題からスカウトを置かないことが多く、J1やJ2でも1人くらいが普通。そこにチャンスがあると思っていて、私たちは2人体制で回りながらよい人材を発掘しています。

他チームとの業務提携で効率化

選手の育成という点について、もう一つの大きな取り組みに、J1の湘南ベルマーレとの業務提携があります。最近ライザップがベルマーレを買収したことでニュースになりましたが、もともと湘南は少ない予算規模で選手の育成に力を入れてきた市民クラブ。私たち福島とはたくさんの共通点がありました。2013年から提携していますが、両者が手を組むことによって多くのメリットが見込めました。

その一つが、マーケットの限界を突破できることです。年に1回、湘南のスタジアムで福島ユナイテッドFCがJ3のホームゲームを開催するイベントがあり、福島の企業が現地でプロモーションを行っています。福島市も毎年ベルマーレの広告を買ってモモのPRをやっていますし、復興支援として湘南側の企業もさまざまなサポートをしてくれます。双方のサポーターが、お互いのクラブのファンクラブに入るということもありますね。とくにうちのファンクラブ特典はリンゴとか豚肉とかなので好評なんです。

もう一つのメリットが人材面です。私たちのスカウト情報とベルマーレのスカウト情報を統合して、J1・J3という異なる環境に合わせて振り分けられるようになりました。この選手は上手いからベルマーレでとか、この選手は福島で1〜2年鍛えようとか、お互いに効率よくチームを強化できるようになったと思います。アカデミー(育成部門)のコーチをベルマーレに派遣して勉強させることもありますし、私たちはユースチームを持っていないので、ジュニアからベルマーレのユースに行った子もいます。福島の子どもにチャレンジの場を提供できるようになったと感じます。

「町づくりのツール」として福島のために

これまでに行ってきたさまざまなチャレンジは、それなりに投資をしているということもあって、経営という点ではまだ厳しい面もあります。ただ、足元の福島の状況を眺めてみると、これまではいわゆる「震災需要」のようなものがあって、街にも賑わいがありました。しかし、それもだんだん少なくなっていますし、スポンサーになってくれる企業の財布の紐も、以前と比べたら固くなってきたように感じます。お話ししてきたような私たちのさまざまな取り組みは、そういった状況の打開に少しでもつながる可能性があると思いますし、「町づくりのツール」として、福島ユナイテッドFCが役立つような存在になりたいと考えています。

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