閉館の危機から大人気映画館へと蘇った本宮映画劇場
福島県郡山市の北部に位置する本宮市。
この町にひっそりと佇む一つの映画館に全国から熱い関心が集まっています。
その映画館は『本宮映画劇場』。
古き良き昭和の空気が色濃く残る館内は、まさに映画の中の世界と思わせるほどの雰囲気。
日本で唯一築100年かつカーボン映写機を使用していた映画館としても知られています。
今回は本宮市にある築102年の映画館『本宮映画劇場』をご紹介。
世代が違くともどこか懐かしく、暖かい気持ちになれる。
映画の貴重な歴史を残す建物として、その価値も注目されている場所です。
【住所】
〒969-1133
福島県本宮市本宮字中條9
入館料:無料
予約:1週間前までに電話連絡を
定休日:12月~3月まで閉鎖
アクセス:JR東北本線「本宮駅」より徒歩5分、東北道「本宮IC」より車で10分
Twitter:https://twitter.com/motomiyaeigeki
Instagram:https://www.instagram.com/motomiyaeigeki/
本宮映画劇場とは
住宅街の狭い路地を進んでいくとピンク色が特徴的な建物が視界に入ります。
本宮映画劇場は1914年(大正3年)に「本宮座」と言う名前で芝居として開業したのが始まりです。
もともとは町の有志が資金を出し合って公民館のような目的で建てられました。
地元の集会場や旅の一座の公演会場として使われ、歌舞伎や大衆演劇、歌謡ショーからプロレスまで様々な興行が行われ地域に欠かせない場所として根付いてきます。
場内の2階、3階の最大1000人まで収容できる桟敷席には、客が寿司詰め状態になるほどだったそうです。
1943年(昭和18年)に現在と本宮映画劇場と名前を変え、映画上映をスタート。
美空ひばりの出演映画では劇場の外に長い行列ができたほどでした。
順調に思えた映画劇場も時代の変化が襲います。
現在の館主である田村さんの父が日本映画全盛期の50年代に急死。
20歳の田村さんが経営を引き継ぎます。
不幸は続き、この頃はTVの普及によって映画業界の人気は下り坂。
例外なく本宮映画劇場も影響を受けました。
そしてついには1963年(昭和38年)に閉館します。
その後、車のセールスマンとして働き始めた田村さんは63歳まで必死で働き、その後借金を返済。
周囲に何を言われても”定年を迎えたら映画館を再開する”という強い志を持ち、決して映画館を手放す事はありませんでした。
しかし、田村さんは60歳までは再開出来ると信じてましたが、いよいよ70歳を迎えた時は、無理じゃないかと思い、電気の線を切ろうかと考えましたそうです。
そんな時に転機が訪れます。
近所の眼科で診察してもらった際、映画館にずっと興味を抱いていた医師から「映画会をやってはどうか?」と言われます。
田村さんは治療のお礼にと先生と看護師さんを招待して上映会を開くことにしました。
ところが・・・
噂を聞きつけた人々が駆けつけて最終的に150人近くも集まり想像以上の結果に。
その後も噂が噂を呼び、全国から人々が訪れるようになり、SNSなどインターネットの普及により更に認知度が全国に広がります。
この頃から福島県内のニュースでも特集されるようになり、福島に長く住んでいてもこの映画館の存在を知らず驚いた人が多かったようです。
またたく間に「本宮市にはレトロな映画館が残っている」というイメージを確立させました。
館主の田村さんもTVのインタビューや様々なインターネットメディアに答えることが増え、毎回映画館内の施設案内やカーボン映写機の説明をしています。
しかし、同じ様な内容を毎回答えているにも関わらず、どこかその表情は嬉しさに溢れているのに気がつくはずです。
経営が苦しくて閉館しても、借金返済で悪戦苦闘しても決して手放さなかった本宮映画劇場。
自分の愛して止まない映画館に関心が集まるのは嬉しいはずです。
この表情からは夢を持ち続ける大切さや喜びといった映画以上の大切なモノを感じさせてくれます。
参考記事:https://style.nikkei.com/article/DGXKZO02757850V20C16A5BC8000/
参考記事:http://www.cinema-st.com/classic/c039.html
日本で唯一のカーボン式映写機
本宮映画劇場は57年製のカーボン式映写機を所有しており、実際に稼働できるものとしては日本でここしかりません。
そのため、インターネットの検索窓に『カーボン式映写機』と打ち込みエンターを押すと、本宮映画劇場に関する記事がずらっと並ぶことがわかるはず。
この事実からも、いかにこのカーボン式映写機が希少価値のあるものなのかが伝わります。
では今の映写機とカーボン式映写機は何が違うのでしょうか?
簡略的な解説ですが、『フィルムを映写するのに必須の発行体の違い』があります。
現在主流の映写機はキセノンランプという電球を用いる構造。
カーボン式映写機はプラスとマイナスの2本の炭素棒(カーボン)に電流を流して発光させます。
その光をフィルムに当て、レンズを用いてスクリーンに映すというの仕組みです。
カーボンで映し出された映像には言葉では表現しがたい『味』があります。
この雰囲気は一般的なフィルムやデジタルでは出せないニュアンスです。
1本のカーボンの燃焼時間は約7分の消耗品。
かつての映画は映写機2台で操作する人も2人。
フィルムを交互に切り替えながら上映しており、その都度カーボンも取り替える必要があります。
休む暇もまく映写機と向き合う仕事内容は、今では想像もつかない程の忙しさだったそうです。
そしてこのカーボンは現在製造している会社はありません。
絶滅寸前の文化を大事に守り続けてきた田村さんに映画への情熱を感じざるを得ません。
参考記事:http://papicocafe.blog.jp/9493814.html
参考記事:http://michino.jp/spot/747
福島のニュー・シネマ・パラダイス
『ニュー・シネマ・パラダイス』という映画をご存知でしょうか?
1988年公開のイタリア映画でカンヌ国際映画祭審査員特別賞とアカデミー外国語映画賞を受賞しています。
とある小さな村で映画館を通じて心通わす物語は世界中でヒットしました。
小さな館内に大勢のお客。
そしてカーボン式映写機を操作する主人公達。
本宮映画劇場はこの作品の世界観を連想させるもので、まさに福島のニュー・シネマ・パラダイスと呼ぶのに相応しいことがわかります。
この『ニュー・シネマ・パラダイス』を見終わった後に本宮映画劇場を訪れるとより一層深い感動を得られるのかもしれません。
積極的な交流にも愛を感じる
本宮映画劇場の公式Twitterでは様々な情報が飛び交います。
地元のTV番組で取材が行われたOA情報や他の場所にあるレトロな映画館の情報、記念写真などの画像。
インターネットを通して本宮映画劇場のみならず、他の映画館や人々の笑顔を情報発信している所からもこの映画という『文化』を心から愛していることが伝わるはずです。
同時に様々な著名人もこの場所を訪れていることがわかります。
本宮市のみならず日本にとっても守り続けていくべき存在、それがこの映画館です。
Twitterのみならずfacebookも開設しているのでフォローもオススメします。
facebook:https://ja-jp.facebook.com/motomiyaeigeki/
風情を感じる周辺の裏路地
本宮映画劇場はレトロなものが好きな人にはたまらない場所ではないでしょうか。
建物はもちろん、その周辺の街並みも実は人気があります。
昔ながらの造りの家々が今も残り、昭和のノスタルジックな空気感は写真からでも伝わってくるはずです。
細い路地を進んで見付けることができる映画館、というのも冒険心をくすぐられます。
日常からタイムトラベルをしたかのような錯覚さえ覚える映画館周辺は多くの人々を魅了するのも納得の風景です。
映画館の中に入れなくても外観や周辺だけでも『レトロ感』を満喫できるはずです。
参考記事:https://ameblo.jp/atorieutakata/entry-11597088169.html
福島が誇る財産の一つ
大正時代から残る誰もが風情を感じる建物。
映画の貴重な資料となるポスターや張り紙。
少し動かすだけでも100以上の工程を必要とするカーボン式映写機。
この場所を愛する大勢の人々の想い。
本宮映画劇場は福島のみならず、日本の財産の一つといっても過言ではありません。
今後は老朽化や後継者といった問題を抱えることになりますが、県やファンの支援があって存続し続けてもらいたい場所です。
一度は閉館したものの、手放すことができずに再建にチャレンジした田村さんの熱い情熱は「ギネスに載ること」という夢にも表れています。
「世界に90を超えた映写技師はいないと思うの。その頃回せるのはきっと自分だけだと思うの」という言葉に生涯現役であり続けることの尊さ、”好き”を極めた先の姿など、様々なメッセージを感じ取ることができます。
日本のみならず世界にも知られてほしい本宮映画劇場。
この先100年も残っていてほしい宝物です。
益々の活躍を期待しています。