会津坂下町の高校生が伝統を守る!県立会津農林高等学校とは
目次
はじめに
福島県と言えば豊かな自然と歴史的な伝統が数多くありますが、会津の地でそんな伝統を守る活動をしている高校生たちがいることを皆さんはご存知でしょうか。会津坂下町で会津の伝統を後世へと残すべく活動しているのが、県立会津農林高等学校の生徒たちです。
この記事ではそんな県立会津農林高等学校の、福島県の伝統を守る取り組みについて詳しく紹介します。
県立会津農林高等学校とはどんな学校か
高校生が主体となって取り組んでいる活動について紹介する前に、この章ではまず県立会津農林高等学校がどんな学校かを簡単に紹介しておきます。
県立会津農林高等学校の概要
福島県の会津坂下町にある県立会津農林高等学校は実のところ歴史が古く、創立は明治40年(1907年)にまでさかのぼります。
平成29年時点で創立110周年を迎えた県立会津農林高等学校は、①農業園芸科、②森林環境科、③食品加工科という3つの学科から構成されます。高校の敷地面積としては特に広い約60万平方メートルの土地を有しており、その敷地内で県立会津農林高等学校の生徒たちは、実習も交えながら各々の分野について学びを深めています。
また県立会津農林高等学校の愛称は「会農(かいのう)」であり、主に会津の地に伝わる伝統野菜の栽培や、早乙女踊り保存のための活動を精力的に行なっています。農業高校ならではの独特な活動を行う一方で、県立会津農林高等学校の生徒たちもまた他の学校同様に、高校生らしく早朝や放課後には好きな部活動に参加しています。
文化部のうち一つとして「農業部」がある点は普通科の高校とは少し違いますが、それ以外の運動部や文化部については他の高校とそれほど大きな違いはありません。「誠実・勤勉・忍耐」という校訓の元に、生徒たちの一人一人が自主的に勉学に励んでいる点はその他の高校と共通しています。
県立会津農林高等学校の学科紹介
県立会津農林高等学校では主に3学科に分かれて勉強することを前述しましたが、ここでその3学科についてそれぞれ簡単に紹介しておきましょう。
①農業園芸科
農業園芸科では農業のスペシャリストとして生きる術を身につけるため、植物の栽培と動物の飼育を同時並行で行い、農業関連の技術と知識を総合的に学ぶことができます。2年生からは「農業コース」と「園芸コース」に分かれ、さらに「作物」・「野菜」・「果樹」・「草花」・「畜産」の中から好きな科目を選択し、より専門的な学習に取り組んでいます。
②森林環境科
森林環境科では緑のスペシャリストとして生きる術を身につけるため、実際の自然環境と関わりながら自然資源に関する技術と知識を実学的に学んでいきます。2年生からは「森林リサーチコース」と「環境デザインコース」に分かれ、林業および造園業について専門的な知識を習得していきます。また福島県内で唯一「林業」を専門的に学べるのは、県立会津農林高等学校の森林環境科を置いて他にありません。
③加工食品科
加工食品科では食のスペシャリストとして生きる術を身につけるため、食品の加工方法や栄養、食品衛生などに関する技術と知識を総合的に学ぶことができます。1年生の時点からさまざまな食品の加工方法について座学と実習を通して学んでいきますが、2・3年生では食品での微生物の働きや化学反応などの発展的な内容をより掘り下げて学ぶことができます。
県立会津農林高等学校は私たちの生活に欠かせない各種スペシャリストを輩出するため、高校独自の取り組みを行っています。そうした専門的な取り組みによって現場の最前線で活躍できる人材を育成できた実績があることで、県立会津農林高等学校は創立110周年超の歴史を持つに至ったのでしょう。
県立会津農林高等学校の伝統を守る取り組みとは
県立会津農林高等学校では会津の伝統を守る取り組みをしていると前述しましたが、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。この章では彼らが精力的に行っている、会津の伝統を守るための取り組みについて紹介していきます。
会津の伝統野菜を守る取り組み
県立会津農林高等学校では会津の地に伝わる伝統野菜を後世に残すべく、消失が懸念される伝統野菜の栽培に力を入れています。伝統野菜では生産効率が悪い上に市場価値が低い、栽培農家の後継者がいないなどの問題が複数浮上しており、現在消失の危機にあります。
ただそんな会津の伝統野菜に全く価値がないのかと言えばそんなことはなく、例えば会津の伝統野菜を守ることで地域の個性を守ることができ、ひいては文化の多様性を維持することができます。あるいは伝統野菜を栽培することで地域産業や教育が活性化し、地域社会のつながりが増えるというメリットもあります。
伝統野菜を栽培し続けることで得られるメリットは実際に多いこともあり、県立会津農林高等学校では会津の伝統野菜を栽培して後世に残す取り組みを行っています。そんな取り組みの中で実際に栽培されている伝統野菜としては、以下のようなものがあります。
・会津小菊かぼちゃ
江戸時代から栽培されている日本在来のかぼちゃで、皮が固いことから長期保存がききやすいというメリットがあります。7〜8月という暑い季節が旬という一風変わったかぼちゃで、水分を多く含むためねっとりとした食感が特徴的です。味自体は他の品種よりも控えめで、煮物にすると上品な甘味と滑らかな舌触りを楽しめますし、かぼちゃチップスを作ってクルトン代わりに活用するのもおすすめです。
・会津余蒔(よまき)きゅうり
余蒔きゅうりの特徴は何と言ってもその外見にあります。一般的に緑の濃いきゅうりを見慣れた方からすると、その白っぽい皮の質感にきっと驚くはずです。ただ実際に食べてみると普通のきゅうりよりも青臭さが少なく、代わりに旨味が強く感じられます。食感は普通のものよりやや柔らかいですが、それでもポリポリと鳴る歯ごたえはあります。現在では栽培する農家もかなり少なくなっているため、市場にはあまり出回らない品種のきゅうりです。
・会津赤筋大根
名前の通り白い皮の上に赤い横筋が入った見た目が特徴的です。肉質はやや固めで水分が少ないため、実際にかじってみるとカリッとした歯ざわりが楽しめます。水分が少なく身が固いことから煮物に適しており、地元では漬物として食べられることも多いです。みずみずしさはないためサラダ向きではありませんが、水っぽくならないため大根おろしとして使うのもおすすめです。
県立会津農林高等学校では現在約18種類の伝統野菜を栽培しており、生産農家が少ない伝統野菜の知名度を上げるべく、地域の小学校や中学校などで食育活動を行ったり、道の駅や各種イベントで熱心にPR活動に取り組んでいます。
会津伝統の早乙女踊りを守る取り組み
また会津坂下町では伝統行事として「御田植祭り」といえ行事があるのですが、この行事では五穀豊穣を願って「早乙女踊り」という踊りを舞って神様に奉納するという神事が長年行われてきました。しかし後継者不足により会津坂下町の保存会が解散されたことで、平成16年から早乙女踊りの奉納が休止される事態になってしまいました。
そこで県立会津農林高等学校の生徒たちが会津坂下町の関係者とともに、「早乙女踊り保存クラブ」を新たに発足します。平成20年から高校生たちが主体となって早乙女踊りを舞い、町の祭礼などで継続的に披露しています。保存クラブを発足した当初は舞を踊る「舞方」だけでしたが、年数が経つにつれ「笛」や「太鼓」、さらには「歌い」も高校生たちで継承していき、今では早乙女踊りの全てを県立会津農林高等学校の生徒たちで分担できるまでになりました。
ここで御田植祭りと早乙女踊りの概要について、改めて確認しておきます。
・御田植祭り:一年間無事に稲が育ち、美味しいお米がとれることを祈願する行事のこと。会津坂下町の御田植祭りは、「会津三大御田植祭」の一つとして指定されている。毎年7月7日に行われ、その際には早乙女踊りが披露される。
・早乙女踊り:そもそも「早乙女」とは山に春を告げる神様の御使いのことであり、稲を植える季節の到来を告げてくれるとも言われる。早乙女踊りは新たな年になる度に五穀豊穣を祈るため踊られており、福島県の無形民族文化財としても指定されている。
実際に県立会津農林高等学校の生徒たちが早乙女踊りを練習している風景は、YouTubeの動画で実際に見ることができます。学校の勉強以外のことで熱心に努力する高校生たちの姿は、見ているだけで過ぎ去った青春時代を思い起こすようです。興味があればぜひ一度検索してみてください。
県立会津農林高等学校の様子を知るには
ここまで県立会津農林高等学校が実際に行なっている取り組みについて紹介してきましたが、彼らの日頃の姿については高校の公式ホームページにある「スクールライフ」から実際に垣間見ることができます。
この学校の生徒たちが日頃どういった勉強をしているか、その途中経過や成果が数枚の写真と実態を語る文章から伝わってきます。自主的に取り組み生き生きとする高校生たちの笑顔や真剣な表情を見ていると、それを見ている自分自身もまた明日から頑張ろうという気にさせてくれます。
学生の子たちが一生懸命頑張っている姿が好きという方にはこちらもおすすめです。
まとめ
県立会津農林高等学校では実学的な学習を通して、自発的に思考して行動できる人材の育成に取り組んでいます。グローバル化の時代に突入して多様な価値観に触れられる今だからこそ、自分の軸となる知識や技術、価値観を学校教育の中で学んでいく必要があるのでしょう。
福島県での旅行に際して街中で会津の伝統文化を見かけた時、彼ら県立会津農林高等学校の生徒たちの姿を思い起こしてみると、また違った旅の醍醐味を感じられるかもしれません。