蘇った築80年強の木造廃校舎!福島県昭和村「旧喰丸小学校」の軌跡
目次
はじめに
2017年6月、築80年の木造廃校舎が生まれ変わろうとしていました。
そこは福島県昭和村にある、「旧喰丸小学校」。
昭和村は会津地方の中でも、いや福島県の中でも深刻な高齢化の進む村として知られています。村で生まれ育った若者たちは高校卒業と同時に、村の外に進学や就職をし離れて行くのが現状。その村で、ひとつの小学校を残そうと、踏ん張った人々がいました。
工事費用の一部として募ったクラウドファンディングでは、寄付者365名、総額12,347,000円もの寄付が集まるほどの反響を呼びます。
そして、遂に2018年4月、「喰丸小」と名前を変えた「旧喰丸小学校」は、同じ地にその風貌のままに蘇ったのです。
旧喰丸小学校のある福島県昭和村の魅力
まずは、再スタートを切った「喰丸小」のある、福島県昭和村をご紹介します。
福島県昭和村は会津地方中部に位置しており、令和元年8月現在の人口は1,264人です。村の9割が山林という自然に大変に恵まれた村で、周囲は山々に囲まれています。豊富な水資源と、その恩恵を受けて連なる田園風景。日本の原風景がそのまま堪能できるのが、この昭和村です。
冬は積雪が大人の背丈よりもさらに高くなり、1年の半分を雪に覆われる豪雪地帯でもあります。
経験をしないとなかなかわからないことですが、その積雪量は1日のはじめと終わりに雪掻きをしても全く追いつかないほどです。寝ても醒めても雪を掻いていなくてはなりません。雪を掻かないと車を出すこともできず、屋根の雪を降ろさないと、雪の重みで家が倒壊する恐れもあります。
長い期間を雪とともに生活するというのは、並大抵のことではありません。冬を耐えしのぐその精神力は、私たちの想像を遥かに超えていることでしょう。
忍耐とは裏腹に、昭和村の凛とした雪景色のなんと美しいこと。古き良き日本の絶景も昭和村には残っています。
そんな昭和村を代表する伝統業として「からむし織」というものがあります。特産は「カスミソウ」。からむし織は今もなお、昭和村に深く根付いており、生活の一部となっています。カスミソウは日本一の栽培規模を誇ります。
正直、昭和村までのアクセスはそこまで良いとは言えません。それでも、日本の原風景と言われる昭和村の絶景を見るために、からむし織を学ぶために、毎年多くの方が体験に訪れています。
その昭和村に残されていた旧喰丸小学校
昭和村に廃校として保存されていたのが「旧喰丸小学校」です。
昭和40年代を皮切りに昭和村では一気に過疎化が進み、一時期は100人以上の生徒が在籍した旧喰丸小学校も、村民の流出とともに生徒数も徐々に減少してしまいました。最終的に、昭和55年には廃校となります。
廃校後は村によって保存されましたが、保存と言えども管理人がいるわけでもなく、校舎や校庭は荒れていく一方でした。老朽化の深刻さから、村民でさえ立ち入りを制限され、校舎からの落雪で近隣の民家が被害に合うこともあり、解体し土地の再利用を求める声もあったと言います。
旧喰丸小学校を襲った二度の解体の危機
安全性を第一に、と。解体の話が囁かれる中、一度目の解体の話が浮上しました。
しかし、廃校から12年が経った平成4年に文化人類学者・故 山口昌男氏が「喰丸文化再学習センター」として校舎を利用することとなったのです。「田舎からの文化情報発信基地」の役割を担って賑わいを取り戻した校舎でしたが、14年の活動を経て終了を迎えます。
二度目の解体の危機は平成21年。なんと映画のロケ地として活用され、再度免れることとなります。解体が決定していたのにも関わらず、映画監督坪川拓史氏の申し出により、映画の撮影終了まで校舎を残すこととなりました。その作品の名は『ハーメルン』。しかし、保存が決定し撮影が開始されるも、天候により撮影が延期されてしまいます。さらに、未曾有の大災害であった東日本大震災が発生。最終的に平成25年に5年もの歳月をかけ作品が完成しました。
そして平成26年、映画の撮影終了後まで延期されていた解体工事ですが、映画の反響をみて一旦保留となりました。保留となるまでにも既に、解体の反対や校舎の存続を求める2,384名の署名が提出されており、村としても校舎を残す動きが大きくなって行ったようです。
村の誇りとして旧喰丸小学校を残そう
建物を取り壊して新たな建築物を建てるのは、予算さえあれば簡単かもしれません。この木造校舎を後世に残すために、旧喰丸小学校を真似て再建することも可能です。しかし昭和村の決断は、校舎を取り壊さずに補修・補強工事をして維持していく、村の誇りとして旧喰丸小学校を「残そう」ということでした。
維持していくには費用も労力も必要です。未来の村の人々に負担になってしまうのではないかという意見もあり、実際は賛否両論。乏しい村の予算と高齢化の進む村民にとっては、次世代に負担させることに難色を示す年配者も多かったと言います。どちらの意見にも村を思う気持ちがあるからこそなのだと感じました。
そういった村人の思いを汲んだ上で、地域活性の場としても、観光資源としても旧喰丸小学校は、若い世代の希望としてチャレンジしていくということでした。
この築80年の木造校舎は、当時の昭和村の村人みんなで建てたのだそうです。みんなの手で生まれた旧喰丸小学校を簡単に取り壊すことは、村人の誰もが望んでいなかったのかもしれませんね。そこに村人から村の小学校への愛情を感じずにはいられませんでした。
昭和村にはここまで愛される小学校があるのです。
村としても、改修工事に必要な総額約1億4,400万円の費用の一部をクラウドファンディングを通して募りました。先に述べた通り、結果として12,347,000円、365人もの方が賛同し寄付をしました。
かなり老朽化が進んだ校舎ですが、使えるものは使おう、残せるものは残そうと、柱の傷んだ部分は除きそこに接木していく。ゆっくりと旧喰丸小学校は、「喰丸小」として生まれ変わっていったのです。
「喰丸小」として担った役割
新たな「喰丸小」は、「学び」「暮らし」「交流」「産業」の領域を託されました。それぞれを通して、木造校舎が村の起点となり、村の集いの場として再出発をきります。
「喰丸小」のミッション
喰丸小は、人と人をつなぎ、奥会津昭和村らしさを守り伝えるための学びの場であり、集いの場となることを目指します。
喰丸小Facebookページ
(1)村民が、互いを思いやり支え合いながら幸せな時を過ごすこと。【村の内同士をつなぐ】
(2)村を訪れた方に、自然に囲まれた穏やかな時間と温かい人情に触れる特別な体験を提供すること。【村の内と外をつなぐ】
(3)子どもたちを育み、村の営みと誇りを教え伝えること。【次の世代へとつなぐ】
【学び】村での学びをサポート
- 放課後子ども教室
- 図書館・自習室
- 各種ワークショップ(講座)
【暮らし】村の暮らしをサポート
- 高齢者の生活支援 (地域サロン、茶飲み場)
- 放課後子ども教室
- 情報交換の集い
【交流】都市農村交流・移住サポート
- 観光情報発信
- 観光誘客イベント開催
- 移住・定住相談窓口
【産業】村の産業をサポート
- カフェ
- 特産品販売
- 手仕事(工芸品制作)
・参照:福島県昭和村・築80年木造廃校舎「旧喰丸小学校」を人が集う拠点へ
村の産業をサポートするひとつの切り札として「喰丸小」に新たにオープンした「蕎麦カフェSCHOLA(スコラ)」は、昭和村・矢ノ原湿原産のそば粉を使用した手打ち十割そばが絶品です。他にもそば粉のガレットや手作りのスイーツもいただくことができます。
会津地方は蕎麦どころとしても密かに有名であり、近隣の市ではそばフェスタなるものが毎年開催されるほどなんです。新そばの味わえる時期に、ぜひ訪れていただきたいと思います。
▼お問い合わせ
蕎麦カフェSCHOLA
TEL : 080-6657-3381
Facebook:https://www.facebook.com/cafe.schola/
Twitter:https://twitter.com/schola2018
営業時間は11:00~15:30 日・月定休
(臨時休業もあるため、各SNSで確認を)
まとめ
福島の会津地方には、昭和村「喰丸小」の他に、西会津にも「西会津国際芸術村」という旧新郷中学校の木造校舎(廃校)を利用した事例があります。
古くからあるものを残すことは、簡単そうに見えて実はとても根気や気力体力のいることです。建築物であれば、建物の補修補強だけでなく管理や活用法を見出す必要があります。良い意味で、辛抱強い会津の人が得意とする分野なのかもしれません。そして辛抱強い会津の人々だからこそ、成し遂げられたことなのかもしれません。
取り壊しを願う声があった中で、少しずつ保存の動きへ切り替わってきた村民の心の移り変わりをみると、映画『ハーメルン』との出会いが、村民の心を動かしたようにも思えます。そう考えると、今日まで廃校舎が残っていたことも、坪川拓史監督が長いこと旧喰丸小学校を探し、ようやく見つけロケ地としたことも、昭和村に住む人々の思いも、何一つ欠けてはいけなかったことに気付かされます。
一つでも欠けていたら、私たちはもう二度と旧喰丸小学校に出会えなかったかもしれません。
▼喰丸小(くいまるしょう)
〒968-0212 昭和村大字喰丸字宮前1374
会津バス・昭和村南会津町生活バス「喰丸下(くいまるしも)」下車すぐ
問い合わせ先:0241-57-2124(昭和村役場 産業建設課 観光交流係)
Facebookページ:https://www.facebook.com/kuimarusho/
開館時間:9:00~17:00
休館日:月・火曜日(祝日の場合は開館し、翌日が休館となります)
入館料:無料
駐車場:普通車20台