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2019.12.06

縁起物としても親しまれてきた福島の大堀相馬焼の特徴やその歴史

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はじめに

日本各地に歴史的に名高い陶器が数多く点在していますが、福島県で有名な物としては「大堀相馬焼(おおぼりそうまやき)」が挙げられます。陶器にはそれぞれに見目麗しい特徴があり、また現在の完成形に至るまでの歴史があります。陶器にあまり触れてこなかった方では「陶器は高級な物」というイメージもあるかもしれませんが、実はそんなことはなく安価で手に入り日常使いできる物がいくつもあります。また最近では伝統的な一品だけでなく、モダンなデザインを取り入れたお洒落な一品までその見目もさまざまに変化しています。

この記事ではそんな福島発祥の伝統工芸として、また海外にも誇れる芸術品として長らく愛されてきた大堀相馬焼の特徴やその歴史について解説しました。

大堀相馬焼の歴史とは

大堀相馬焼の歴史の始まりは江戸時代まで遡ります。相馬中村藩士の半谷休閑(はんがいきゅうかん)が大堀で陶土を発見し、その陶土を使い日常的に使う焼物を生産するよう下男に命じます。そうして旧藩政時代に生産された焼物は「相馬焼」と呼ばれていましたが、国の伝統的工芸品として指定されて以降は産地の大堀の名を含めて「大堀相馬焼」という名前で全国に広く知られることになりました。

大堀相馬焼の創業は1690年ですが、大堀相馬焼の特徴の一つでもある駒絵が描かれるようになったのは1830年以降とされています。当時の中村藩が相馬野馬追(そうまのまおい)の伝統を有していたことから、繋ぎ駒や走り駒と呼ばれる意匠が施されるようになります。

そして1853年頃には大堀相馬焼の販路は北海道から関東一円、さらには信州越後方面まで広がりを見せていきます。それに伴い陶器の技術も伝達されることになり、結果的に大堀相馬焼は益子焼や笠間焼といった他県で生産される陶器のルーツにもなりました。

こうした歴史の中で大堀相馬焼はその特徴を確立していくのですが、大堀相馬焼の特徴は他産地との競争が激化したことによる差別化によって誕生しました。それは陶工達の努力の結晶とも言えるのですが、大堀相馬焼の持つ特徴とはいったいどのようなものなのでしょうか。

大堀相馬焼の特徴

他の産地における焼物についても言えることですが、日本各地に現存する陶器のそれぞれに独自の特徴があり、その特徴こそ陶器の美しさを最大限に引き立てるものです。福島が世界に誇る大堀相馬焼では三つの特徴が見られる訳ですが、以下で順に紹介していきましょう。

①馬の絵がある

大堀相馬焼はその名前の通り、馬の絵が意匠として施されることになります。この馬の絵はそもそも旧相馬藩の御神馬が描かれているとされ、その別名を「左馬」と言います。この左馬が「右に出る者がいない」という意味を持つことから、大堀相馬焼は縁起物として古くから人々に愛されてきた経緯があります。

特に狩野派の筆法である「走り駒」は熟練の陶工による手描きであり、雄々しく駆け抜ける御神馬の姿を筆一本で見事に表現しています。最近では馬の姿そのものが描かれている物だけでなく、馬の一部分の特徴のみを抽出して描いた物までそのデザインはさまざまです。それについては記事の後半で詳しく解説します。

②青ひびがある

器全体に広がる青ひびは大堀相馬焼の地模様にもなっており、貫入音(かんにゅうおん)素材と釉薬(ゆうやく)との収縮率が違うことで、焼いた時に自然と細かなひびが入ります。細かなひびが入る時に鳴るのが前述した貫入音なのですが、この音は「うつくしまの音 30景」にも選ばれるほど繊細な音色を奏でることも特筆すべき部分と言えます。

③二重焼きになっている

大堀相馬焼の湯呑みが冷めにくいと言われる所以であり、大堀相馬焼以外の焼物には見られない珍しい特徴です。形成の段階で外側と内側とを別々に作っておき、焼成の段階で被せて二重構造にするためこのような形に仕上がります。大堀相馬焼の湯呑みは熱いお茶が冷めにくいという利点もそうですが、その熱さが外側には伝わらず持ち手が熱さを感じにくいという利便性も兼ね備えています。

大堀相馬焼が出来るまで

大堀相馬焼の長い歴史によって完成されたのが現在の形という訳ですが、ここで大堀相馬焼が出来るまでの工程を簡単に確認しておきましょう。

①成形

大堀相馬焼ではろくろを使って成形しますが、陶器の出来を左右する最も重要な工程がろくろによる成形であるとされています。

②削り仕上げ

生渇き状態の成形品に高台削りや飛びかんななどの削り仕上げを施し、さらに装飾をしていきます。

③生地加色

生地に色をつける方法として生渇き時に施す花抜や泥塗りなどもあれば、あるいは完全に乾燥させてから行う彫りなどの技法もあります。表現したい質感や色合いに合わせてそれに適した表現法が選ばれます。

④乾燥

生のままでは急激な乾燥によりひび割れや歪みが生じやすいため、まずは陰干しから始めて次に天日干しを行いしっかりと時間をかけて乾燥させます。

⑤素焼き

成形品を完全に乾燥できた時点で釜に入れ、900〜950℃で焼成します。

⑥下絵付け

吸水性のある素焼きの表面に、呉須という鉄分を含んだ絵の具を使って走り駒や松竹梅などの絵を筆で描きます。

⑦釉かけ

浸しかけや回しかけなどの技法で「うわぐすり」をかけます。

⑧本焼き

釉かけの終わった陶器を釜に入れ、1250〜1300℃で本焼きします。

⑨墨入れ

出来上がった作品のひび割れをよりはっきりとさせるため、ひびに墨汁を擦り込んでから布で拭き取ります。

歴史の中で技術が磨かれ現在の完成形になった訳ですが、大堀相馬焼は21世紀になった今でも刻々と変化しています。次章では大堀相馬焼における現代的な革新の一例を紹介していきます。

大堀相馬焼の現代における挑戦とは

大堀相馬焼の主な産地である浪江町は、2011年3月11日に起こった東日本大震災により甚大な被害を受けました。その際に25件の窯元が離散したと言われており、現在の10窯元が再興したのは震災から4年後の2015年のことでした。元々の産地であった浪江町は帰宅困難区域に指定され、浪江町で活動していた窯元は県内外で作陶せざるを得ない状況へと追い込まれました。

そんな状況の最中である2014年、12年ぶりの午年にちなんで大堀相馬焼の窯元達と10人のクリエイター達が協力する形で企画されたのが「KACHI-UMAプロジェクト」でした。

KACHI-UMAプロジェクト

大堀相馬焼と言えば走り駒というイメージが根強く、古くから愛される縁起物としての側面が特に印象的です。古くからの伝統として描かれてきた馬ばかりを意匠とせず、新しい感性と発想で描かれた馬を大堀相馬焼に取り入れようという想いから始まったのがこのKACHI-UMAプロジェクトでした。

「明日を駆ける馬」をテーマに描かれた10頭の馬は、各クリエイター達の感性が光り個性豊かな顔ぶれの大堀相馬焼が取り揃えられることになりました。このKACHI-UMAプロジェクトで制作された商品の9.19%が、以下の資金として充てられています。

  • 窯元の新しい挑戦に対する寄付 (販路開拓・新商品開発・新技術のための設備投資)
  • 公的な助成金の支援を受けたいが地域的制約により受けることができない窯元への設備に対する寄付
  • 「大堀相馬焼陶器市」のような大堀相馬焼窯元全体にとってプラスとなるような活動に対する寄付

この9.19%についても実は、「うまくいく」の語呂合わせになっています。KACHI-UMAプロジェクトで馬のイラストを担当した各クリエイターはさまざまな分野の第一線で活躍しており、各人の描く馬にはそれぞれの想いや願いが込められています。

同プロジェクトによって制作された湯呑みのデザインや想いについて詳しく知りたいという方は、「KACHI-UMA」で一度検索してみてください。

JR東日本によるグランプリで金賞受賞

今年の6月10日から開催された「JR東日本おみやげグランプリ2019」では、東日本1都16県から197品もの土産品が揃いました。「旅先のお土産として」「地元のおすすめとして」選ばれた一品に投票されるシステムでしたが、そのグランプリにおいて大堀相馬焼の「福のまめ皿」が雑貨部門で初の金賞を受賞しました。

この福のまめ皿は大堀相馬焼の5つの窯元が別々に手掛けており、大堀相馬焼の意匠である左馬の他にも、楢葉町や浪江町のサケから取れるイクラ、富岡町の夜の森の桜、川内町のイワナ、葛尾村の凍み餅をイメージした絵付けが施された一品です。この商品については富岡町のJR富岡駅に隣接する売店「さくらステーションKINONE」で実際に販売されており、一枚ごとの販売も検討されているとのことです。

陶器と聞くと古めかしいデザイン、値段が高いというイメージですが、大堀相馬焼は時代に即した形で変化を遂げています。上記で紹介したように、現代に対する挑戦を続けることで生み出される新たな魅力というのもきっとあるはずです。

まとめ

バブル崩壊後から後継者問題が浮上したり市場の急速な動きについて行けず、廃業してしまった窯元もあったと言います。そんな最中に東日本大震災に見舞われ大堀相馬焼の産地を強制退去させられた過去があります。また時代の流れに伴い安価でのもの作りが浸透するにつれ、高価な物を取り扱うことの多い伝統工芸業界や陶器業界は厳しい現実に直面し、大堀相馬焼もまた変化することを余儀なくされました。

そんな過酷な状況の中でも大堀相馬焼の窯元は精力的に作陶に励み、時代に即した形へと変化し続ける道を選択しました。それは大堀相馬焼を通して福島の魅力を最大限に発信していこうとする、職人の方達の強い想いが原動力になっていることはまず間違いありません。

東日本が震災前の姿を取り戻すまでにまだまだ時間はかかるでしょうが、その復興を支援する意味でも福島の土地に根差した大堀相馬焼という陶器を一度手にとってみてはいかがでしょうか。繊細で温かみのある陶器の上を疾駆する馬の姿に、福島の古き良き一面を垣間見られるはずです。

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